この記事は、そんなあなたに向けて書いています。
最近マネー本しか読んでない福ねこです。
今日は、数あるマネー本の中から、「歴史×経済」という面白い観点で書かれた1冊をご紹介します。
そのタイトルが、
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』
です。
著者の大村大次郎さんは、元国税調査官。
主に法人税担当調査官として勤務されていました。
学生の頃よりお金や経済の歴史を研究し、別のペンネームで30冊を超える著作を発表されています。
古代エジプト〜現代までを扱った本ですので、すべての内容についてこの記事で触れることはできません。
ゴメンなさい。
この本では「国の栄枯盛衰にはパターンがある」と書かれています。
超ざっくりですが、それは以下のようなパターン。
【栄えるとき】
・税金を抑えて流通を促進
・産業の発展
【没落するとき】
・税金を取りすぎ
・戦費がかかりすぎ
こんな感じです。
この記事では、本書から、「国が栄える理由」「国が没落する理由」について抽出して解説していきます。
もくじ
国が栄えるとき
まずは、「国はどうすれば栄えるのか?」というポイントについて見ていきましょう。
免税・徴税の健全化
この本を1行に要約するなら、「腐敗した役人が市民から税金を取りすぎると国は滅ぶ」と書くでしょう。
それくらい、税金の取り方次第で国の行く末は変わってきます。
「改宗すれば免税」のイスラム教
意外かもしれませんが、ローマ帝国が滅んだ後は、世界経済はイスラム世界の影響を強く受けていました。
イスラム教が急激に勢力を拡大した大きな要因の1つ、それが「減税政策」です。
イスラム教を開宗したマホメットは、
と呼びかけました。
当時は、人頭税に加えて、土地税の2種類の税が課せられていたよ。
かつて旧ローマ帝国の領民は、過酷な税の徴収に苦しんでいたんだ。
キリスト教とであれば、過酷な徴税から逃げられないシステムになってたんだよ。
そんな納税に苦しむ人々の前に天使のように現れたのがイスラム教。
イスラム教には、以下のようなメリットがありました。
・税は金貨・銀貨に限らず、領民の都合のいいもの(穀物など)でOK!
・イスラム教徒がちょっとでも家畜の放牧などで使用した土地は、土地税を免除!
・人頭税は免除!
しかも、改宗しない者に対しても、「改宗せんかい!」と強制的に迫ることはありませんでした。
キリスト教徒とユダヤ教徒も、以下のことを守っていれば、イスラム帝国で安全に生活することができました。
・「人頭税を納めること」
・「イスラム教徒の男性を打たないこと」
・「イスラム教徒の女性に手を出さないこと」
・「イスラム教徒の旅人を親切にもてなすこと」
多くの人がイスラム帝国に集まり、反乱も起きない。
そんな期間が長く続きました。
ですが、やはりそれも永遠には続きません。
イスラム帝国が没落した原因は記事の後半で解説します。
貿易品の関税を下げたフビライ・ハーン
モンゴル帝国第5代皇帝フビライ・ハーンは、交易の自由度を上げることで、世界的な流通革命を起こしました。
フビライ・ハーン以前は、貿易品が各都市の港、関門などを通るごとに、関税が課されていました。
それをフビライ・ハーンは、「売却地で一回だけ払えばよい」ことにしました。
その税率も、3・3%と決して高くはないものでした。
税率が下がれば、その分取引も増えますよね。
それと似たような感じじゃないかな。
モンゴル帝国が広大な地域で治安を維持していたことで、この時代の商人は自由に土地を行き来できていたのです。
王の権利を制限したマグナカルタ
マグナカルタとは、1215年にイギリス国王のジョン王が、国民に対して表明した約束のことです。
その内容は以下のようなものでした。
・国王が勝手に税金を決めない
・国民は国法によらずして罰せられたり、財産を侵されたりしてはならない
なぜマグナカルタができたかというと、ジョン国王がダメダメだったからです。
戦争好きなのに負けてばかりで、市民や貴族たちから「やめちまえ!」と廃位を迫られてました。
そこで、「もう二度とバカなマネはしません!泣」と出したのがこのマグナカルタというわけ。
マグナカルタがあったおかげで、イギリスは増税で戦費を賄うことが難しくなりました。
増税は国の没落の入り口です。
そこをマグナカルタのおかげで避けることができるわけです。
ですが、増税で資金を調達できなくなった分、他のことに力を入れなければなりません。
その結果、イギリスの産業発展につながったというわけです。
産業の発展
産業の発展で国の財政は潤います。
蒸気機関による産業の自動化
イギリスは蒸気機関を世界でいち早く実用化することで、世界で最初の産業革命を成し遂げました。
18世紀、イギリスのトーマス・ニューカマンが蒸気機関による揚水装置を発明しました。
当時、炭鉱や鉱山の掘削作業では、掘り進めると湧き出てくる水をかき出す作業に大変な苦労をしていました。
そこを自動化できたことは、当時画期的なものでした。
蒸気機関の発想は17世紀からあったものですが、実用化できたのは、イギリスに資本力があったからです。
なぜ資本力があったのかというと、17世紀末に起きた財政改革に最大の要因があります。
財政改革のキモは、国債制度の確立。
政府はイングランド銀行から安い利率で融資を受けることができるようになりました。
その結果、資金力が増し、戦費の調達や産業の充実に有利になったというわけです。
土地を安く買いまくって資源を手に入れたアメリカ
アメリカって、実は世界史の中でいうと新興国なんです。
建国から200年しか経っていません。
アメリカの経済力の源は、広大な領土と資源。
世界で3番目に広い国土を持ち、さらに、ロシアのように寒くない。
国土の中に金脈、油田、鉱山がたくさん。
でも、はじめからこんなに大きな国じゃなかった。
アメリカには現在50の州がありますが、独立当時は13州しかありませんでした。
メキシコと同じくらいの面積です。
【アメリカはこんな風に土地を買った】
・土地取引に不慣れなインディアンを言いくるめた。
オハイオ・インディアナ・イリノイなどを1200坪12円という破格でお買い上げ。
・植民地経営に行き詰まる土地をかたっぱしから買い漁った。
当時、西欧諸国は割とお金のかかる植民地経営に疲れていた。
アメリカは、陸続きの土地を買うことで、国土を増やしました。
植民地経営ではお金や時間がかかります。
陸続きであれば、国民が入植すればそのまま国土として成り立ちます。
国が没落するとき
国が没落するおきまりのパターン。
それは以下の2つ。
・高すぎる税金
・戦費がかかりすぎ
1つずつ見ていきましょう。
高すぎる税金
税金が高すぎると、「格差」と「民衆の不満」を生みます。
民衆の不満が内乱につながると、そこを他国に付け入られます。
では、なぜ税金の額は上がってしまうのでしょうか?
古代エジプトの徴税役人の腐敗
古代エジプトは優れた徴税システムによって繁栄し、役人の腐敗によって没落しました。
古代エジプトでは徴税役人である「セシュ」に国家から給料が支払われたので、決められた通り税金を徴収するだけでよかった。
国王であるファラオも、徴税役人が私服を肥やすことのないよう、徴税役人を監視する機関もつくっていました。
というお達しまで下されていたそうだよ。
おかげで国王も国民も豊かな生活を送ることができていました。
ですが、人の欲望は強いもので。
それを埋め合わせるために、税額が増やされたりしたんだ。
重税に苦しんだ民は、農地を放棄して逃げ出してしまいました。
農村の人口は減り、ナイル川の堤防が修理できず、洪水の被害を受けてしまうようになりました。
旧約聖書の中にも、モーセが奴隷にされたユダヤ人たちを率いてエジプトから脱出する物語が出てきます。
取引ごとに課税したスペインの消費税「アルカバラ」
大航海時代のスペインの消費税「アルカバラ」は、1品ごとではなく取引ごとに課税されていました。
つまり、製造業者が卸売業者の販売するときにも消費税がかかり、卸売業者が小売業者に販売するときにも消費税がかかる。
最終的にエンドユーザーに商品が渡るときには、累積された消費税が商品価格にたっぷり上乗せされてしまう。
その結果、国の税収は上がったけど、物価が上がって景気が低迷しました。
物価が上昇すると、商品が他国に比べて割高になり、スペイン産品が輸出しにくくなります。
イスラム帝国は徴税の下請けによって滅んだ
温かい税務行政で勢力を伸ばしていたイスラム帝国ですが、マホメットの死後、急速に衰えてしまいます。
理由は、マホメット以降の指導者が、徴税を地方軍人や役人に下請けさせてしまったこと。
役人たちは「私腹を肥やすために過重徴税する」という、なんとも困ったちゃんな特徴があります。
そうなると、中央政府にはお金が入らなくなります。
中央政府の力は衰え、地方の有権者が好き勝手暴れる。
こうしてイスラム帝国は分裂していってしまいました。
戦費がかかりすぎ
戦争費用をいかに抑えるかも、国の体力を維持するうえで大切です。
スペイン「無敵艦隊」の高すぎるメンテナンス費
スペインが誇った無敵艦隊には、高いメンテナンス費がかかっていました。
1572年〜1575年の間で、1000万ダカットの維持費がかかっています。
単位のダカットがピンとこないかもしれませんが、当時のスペインの年間歳入が500万〜600万ダカットでしたから、その約半分が無敵艦隊のメンテナンスに当てられていたということです。
戦争は、負けた国だけに被害があるわけではありません。
スペインは戦争によって財政悪化を招いていました。
戦争にはお金がかかります。
兵士の雇用、戦争物資の確保などなど。
イギリス、フランスなどのヨーロッパ諸国やオスマントルコと何度もドンパチやってましたから、植民地から莫大な富を収奪していたにもかかわらず、財政危機が慢性化していました。
商売・金融に長けた一族
世界には、お金に強い人種というものがおりまして、そういった人たちが行く土地行く土地が栄えていくという傾向があります。
ユダヤ人
あらゆる経済大国の陰には、必ずユダヤ人がいます。
ユダヤ人は、大きな帝国を持つことはありませんでした。
土地を移り変わる、いわゆる放浪の民です。
放浪することで、各地の情報が集まり、世界各地にネットワークを作ることができました。
ユダヤ人たちは、様々な地域の文化を別の国に運ぶという役割を持っていました。
世界最古の貸金会社、紀元前6世紀にバビロニアにできた「ムラシュ商会」も、ユダヤ人がはじめたもの。
ユダヤ人がお金儲けが上手い理由は、ユダヤ教にもその要因があります。
ユダヤ教は、お金を汚いもの、いやしいものとは考えません。
・「富は要塞であり、貧苦は廃墟である」
・「金は人を祝福するものである」
・「空の財布がもっとも人を傷つける」
こういった教えを守っているわけです。
ユダヤ教のお金に対する教えは、奴隷にされた過去を持ち、放浪の民となったユダヤ人が生き抜くためのもの。
きれいごとではない、合理的な処世術です。
スペインは1492年にユダヤ教徒追放令を出しました。
財政に長けたユダヤ人を追い出したことは、財政を大きく悪化させる原因になりました。
おわりに:そして現代
現代はフランス革命前夜の状態に似ているといいます。
世界各国の富裕層がケイマン諸島などの極端に税金が安い地域に移り住んで、税金の支払いを逃れる。
先進諸国は中間層以下に厳しい課税をするようになる。
こうして、不満がたまっていく。
国が没落するお決まりのパターンです。
「特権階級が甘い蜜をすすっているこの状況、なんだか危なくない?」
と警鐘を鳴らしています。
◇
◇
とまあ、ちょっとヒヤッと来るオチで終わらせることもできたんですが、もう少し続けさせてください。
これってなにも、国同士、歴史のマクロな話でしょって終わらせるんじゃなくて、僕たちにとっても教訓にできるお話なんじゃないかと思うんです。
下の立場への不公平な扱いがよくないってことは、会社の上司の立場でも同じ。
信頼できない人にお金のことを任せると、だまされて吸い取られてしまうのも同じ。
この記事では紹介しきれなかった、イギリスの黒歴史である奴隷貿易や海賊行為についても、世界史のドロドロした実態を目の当たりにするいい機会かと。
気になる方はぜひご一読ください。